一 憲法改正国民投票法は来年(2010年)5月18日に施行される。現在のところでは2007年参院選自民党敗北=野党の多数派化(<ねじれ国会>化)もあって憲法改正への具体的展望は開けないが、来年の上記法律の施行によって憲法改正に関する関心が少しは高まるだろう。そして、<政界再編>の態様によっては、改正案の具体的検討が国会で始まる可能性を排除することはできないと思われる。
 憲法改正の中心的争点は、現憲法九条2項を削除するか(そして「軍」保持を明確にするか)否かだ。現九条全体では決してなく、問題になるのは九条2項であることをあらためて書いておく。
 「左翼」は、憲法改正への関心の高まりと九条2項削除を恐れており、後者を断乎として阻止しようと考えているだろう。安倍晋三内閣を「右派政権」と社説で呼んだ朝日新聞はその先頭又は中核部隊の一つにいる「政治団体」だ。
 二 上のような、憲法改正を阻止するための策略・陰謀は、現在も多少の衣を被って進行しているのではないか。
 NHKスペシャル「JAPANプロジェクト-戦争と平和の150年」は、第一回は「台湾統治」を主題にしていたが、既述のように、その前日の「プロローグ」は現九条の理念や存在意義を積極的・肯定的に主張することを主眼にしていた。また、第2回では憲法問題を扱うことも予告されている。
 「台湾統治」に関する4/05放送については、この欄に既述のほか、産経新聞報道(4/29)によると、自民党の議員連盟「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(会長・中山成彬)は4/28にNHK会長に対して13項目の質問状を発した。当然に上の番組を問題視しての行動だ。
 だが、ネット情報によるかぎりは、朝日・毎日・日経・読売の4紙は、NHKの上の番組に対して「偏向」等の抗議・批判の声があがり、日本李登輝友の会や上の議員連盟による抗議・質問状がNHKに対して発せられたという<事実>をも、いっさい報道していない。この点を扱っているのは、見事に(?)産経だけだ。
 だがしかし、奇妙なことに、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が対NHK質問状を発した同じ日(4/28)に、放送倫理・番組向上機構(BPO)の中に設けられている「放送倫理検証委員会」は、8年前(!)の2001年1月放送の<問われる戦時性暴力>とか題する<従軍慰安婦>問題を扱った(バウネットら主催の「戦時性犯罪国際戦犯女性法廷」なる集会の紹介)番組に関して、直前の改編は「公共放送の自主・自律を危うくし、視聴者に重大な疑念を抱かせる行為」だったとする意見書を公表した(この引用は読売新聞。改編に「政治的圧力が実際に影響したかどうかの判断」はしていない)。そして、この事実は、ネット上でも、朝日・毎日・日経・読売のすべてが取り上げている(産経も)。4/29朝刊でこれら全紙が報道している筈だ。
 ネット上での朝日新聞によると、BPO「放送倫理検証委員会」意見書は、上記のことのほか、「
『国会対策部門と放送・制作部門は明確な任務分担と組織的な分離がなされていなければならない』と指摘し、『経緯から教訓を引き出し、慣習を点検し、場合によって制度設計をやり直す仕事は、NHKで働く人々に委ねられている』と変革を促した。番組の改変については『質の追求という番組制作の大前提をないがしろにした』と判断した」、という。
 また、ネット上での日経新聞によると、「『番組は完成度を欠き散漫。質より安全を優先することを選んだ』と厳しく指摘した」、また、NHK幹部が与党の有力政治家(要するに安倍晋三と中川昭一だ)と面会したことを「『強い違和感を抱く。政治と放送との適正な距離に気を配るべきは放送人の側』と批判」した、という。
 また、ネット上での読売・朝日によると、「制作部門の幹部が政治家と会って番組を説明すること」自体が「自ら政治的関与を招く行為で、視聴者の疑念を招き、信頼を裏切る」、「NHKは現在も制作部門が事前に政府高官に説明する可能性を排除していない。やめて欲しいと申し上げることにした」とも、「放送倫理検証委員会」会長・川端和治(弁護士)は記者会見で述べたらしい。
 三 つい最近の「偏向」(と批判されている)番組に関しては一切報道せず、八年前の番組に関して今頃になって行ったBPO「放送倫理検証委員会」の(結果的又は間接的には安倍晋三らを批判し、元の<極左偏向>番組を擁護することとなる)意見書公表については報道する、という点自体にも新聞業界の大勢の<不公平さ・不公正さ>又は<偏り>があるだろう。
 上の点は別としても、この意見書は内容的にも奇妙で、適切なものではないのではないか。
 第一に、会長発言のように、事前に「制作部門の幹部が政治家と会って番組を説明すること」自体が一般的に許されない、とすることは誤りだろう。こんな見解が一般的に正しいこととされると、NHK幹部は政治家と会見する・面談する、といったことが一切できなくなるのではないか。毎日、又は毎日の如く<政治>と関係のある放送をNHKは行っているのであり、上のように言われると、「会う」こと自体が(実際にはそうではなくとも)近日に放送される予定の番組・放送内容の説明と勘ぐられてしまいかねないからだ。
 より大きな、基本的なことだが、第二に、BPO「放送倫理検証委員会」は、改編された、又は改編前の(幹部が介入する前の)放送内容を「放送倫理」の観点から、いったいどう判断しているのか??
 改編を指示した幹部らを批判することとなる意見を出す前に行うべきことは、改編後の又は改編前の(放映されようとしていた)放送内容の「放送倫理」の観点からの評価なのではないか。
 すでに上で<極左偏向>と書いたが、<自主・自律>に疑問があるとの判断は、当該放送・番組内容の評価と全く無関係にはできない筈だ
 しかるに、BPO「放送倫理検証委員会」は、この点については完全に口を噤んでいる。これは異常というほかはない。最終的には昭和天皇を<性犯罪>者として「有罪判決」を下す集会のほとんどそのままの放映は放送法等にも違反する<極左偏向>ではないのか。いったい、BPO「放送倫理検証委員会」メンバーは何を考えているのか。まともな精神・神経を持っているのだろうか。
 放送倫理・番組向上機構(BPO)も上の委員会も名称のとおり「放送(番組)」のみを対象にしており、新聞(報道)は対象としていない。
 したがって朝日新聞の報道の仕方を審議する性格の機構ではないが、もともとあの8年前の<事件>は、<NHKと政治家>の「距離の近さ」ではなく、<朝日新聞と取材対象者(バウネットら)>の「距離の近さ」をこそ問題にすべき事案だったと思われる。
 かつて朝日新聞記者だった者(松井やより-故人)が代表を務めたことのある女性団体等と現役記者・本田雅和がほとんど一体になっていたからこそ(そして、のち2005年のNHKディレクター・長井暁の「告発」を契機にして)、自民党政治家の<政治的圧力>による改編、という朝日新聞作成(捏造)の基本的構図ができあがったのだ。
 今回のBPO「放送倫理検証委員会」意見書は、結果としては、朝日新聞や本田雅和を免罪する、朝日新聞・本田雅和が描いた構図上での動きに他ならない。
 四 BPO「放送倫理検証委員会」のこの問題についての議論は今年1月に始まった、とされている(BPOのHPには簡単な議事録もある)。
 いったいなぜ、今年1月になって議論を開始し、この4月に意見書をまとめたのだろうか。
 以下は、推測又は憶測だ。
 NHKの一部の者たちはNHKスペシャル「JAPANプロジェクト-戦争と平和の150年」の制作をすでに開始していた。それは護憲=憲法改正反対(九条護持)の立場・主張につながるように日本の近現代史を描く番組だった。そして、彼らの意向どおりに番組を制作すると、実際に生じたように、<偏向>・<不公平・不公正>と批判される可能性があるものだった。批判者の中には国会議員・政治家も入ってくる可能性があり、組織・団体としての抗議・批判もありえた。
 そういう状況を想定すると、NHKの番組・放送内容に対する政治家・国会議員の何らかの形での<介入>(批判・抗議・質問状交付等)を防止する、又はその<介入>は不当なものだという印象を与える、という目的のためには、別の案件を利用してでも、政治家・国会議員の何らかの形でのNHKへの<介入>を疑問視する=NHKの「自主・自律」性維持を要求する<公的な>意見が出ていることが、彼らにとっては有利なことだった。
 つまり、八年前の放送に関しての今年4月のBPO「放送倫理検証委員会」意見書は、今年のNHKスペシャル「JAPANプロジェクト-戦争と平和の150年」を守るために、(「保守」派・「ナショナリズム」派・<改憲派>の)政治家に対するNHKの「自主・自律」性の確保を迫るために、出されたものではないだろうか。そのためには「再発防止計画」の提出につながる「勧告」・「見解」という大げさなものではなく、たんなる「意見」であっても有効だった。
 上記委員会のメンバー全員が上のような意図をもっていたとは思わないし、あるいは全員が4月以降の放送との関係を意識していなかった可能性もある。しかし、八年前の放送の件を議論するように第三者が働きかけることはできるはずだ。そして、特定の内容の意見書へと結果として誘導することも、委員の構成次第では不可能ではない、と<策謀>した者が存在したとしても、不思議ではないと思われる。
 五 意見書を出したBPO「放送倫理検証委員会」のメンバーは次のとおり。計11名。
 川端和治(委員長・弁護士)、上滝徹也(日本大学教授)、小町谷育子(弁護士)、石井彦壽(弁護士)、市川森一(脚本家)、里中満智子(漫画家)、立花隆(評論家)、服部孝章(立教大学教授)、島久光(東海大学教授)、吉岡忍(作家)、高野利雄(弁護士)。
 上のうち、市川森一・里中満智子・立花隆・服部孝章・吉岡忍、計5名は明確な<護憲派>又は「左翼」だ。また、概して、弁護士界は(とくに「公的」な仕事をしている弁護士は-稲田朋美・橋下徹等を除いて)「左翼」的だ。一概にはいえないが、「大学教授」も相対的には「左翼」的傾向の者が多い。
 六 改憲阻止に向けた執拗な<策略・陰謀>が、NHKをも巻き込んで、静かに、深く進行しているのではないか? そんな恐怖を感じるのだが、気のせいか。