一 田母神俊雄・自らの身は顧みず(ワック、2009.01!-第三刷)のp.92あたりまで読む。いつのまに書いた文章かわからないが、この人の歴史認識は相当にしっかりしている。戦前の日本軍と今の自衛隊との断続性や違いを強調する向きは多く、その一人は五百旗頭真のように思われたが、軍隊(又は少なくとも実質的にはそれに相当するものの)構成員の活動にとって自国の一定の歴史認識を前提とした<愛国心>が不可欠であることは言うまでもなく、田母神俊雄は自分で選びとったその職業の存在意義を自覚し確認するためにも日本のかつての戦争等に関する強い関心を持って、種々の文献や史料を読んできたのだろう。職業・生業とはほとんど無関係に一日本国民としてしかかつての戦争等に関する文献等を(それも一部のみを)読んでいるにすぎない私とは所詮、迫力、真剣味が違うと言わざるをえない。テレビでの堂々とした、かつ余裕をもった発言ぶりも大したものだ。1948年生の「団塊」世代。こういう人もいることに安心する。
 二 西村幸祐責任編集・反日マスコミの真実2009(オークラ出版・撃論ムック264、2009.01!)をたぶん7割程度は読んでしまった。
 1 山際澄夫「どこまで続く朝日新聞の自虐史観」の中に「言うまでもなく自衛隊員は有事の際には、『自らの身は顧みず』戦うことを誓約している」(p.87)とある。知らなかったが、田母神俊雄は上の本のタイトルをなぜ「自らの身は顧みず」としたのだろうとの感想・疑問をもっていたので、疑問が解けた。なるほど、この「誓約」の文章の中の語句なのだ。
 2 11月中に何となく<左翼ファシズム(左翼全体主義)>の形成と支配を感じて、よい気分でなかった。そのような<雰囲気>が(ほぼ産経新聞を除く)マスメディアにはあることを、この書物のいろいろな執筆者が同じ概念ではなくとも縷々語っている。私の感覚は異様ではない。田母神やその歴史観に対する「報道テロリズム」という語もあった。こうした本が出て反撃してはいるが、しかし、寒心に堪えない状況にあるのは確かだ。
 3 花岡信昭によると、サンデー毎日(毎日新聞社)11/23号はアパの賞金300万円は実質は体験搭乗の見返りの「贈賄」だ、と書いたらしい。どういう週刊誌であれ「こういう嘘を書いてはいけない」(p.53)。
 4 ウェブ上での意識調査(11/04~11/11)の結果が写真として載っている(p.09)。田母神俊雄論文につき、「まったく」46%、「ほとんど」13%、計59%が「問題はない」。一方、「とても」32%、「少しは」10%、計42%が「問題あり」。投票者は「その他」を除くと約96000人。
 上の本(雑誌?)ではなく月刊WiLL2月号で、最近のいわゆる<朝ナマ>(私は観ていない)に出た水島総は、最後の電話アンケートの結果は田母神俊雄支持が6割を超え、田原総一朗・姜尚中・小森陽一は「慌てた表情」だった、と書いている。
 こうした情報には多少は溜飲が下がる。だが、朝日新聞らが大きな顔をしてのさばっていることに変わりはない。潮匡人月刊WiLL2月号反日マスコミの真実2009の文章の最後はいずれも悲観的予測だ。
 5 連載記事の中では西尾幹二「私の人生と思想1」が関心を惹く。

 大月隆寛「通俗としての『保守』」が「左翼/リベラル」と「保守」に共通する「通俗」を指摘し、「左翼/リベラル」が田母神論文に対して「敢えて言挙げせねばならなかった『想い』や至情とはどのようなものだったのか、という部分も穏当に斟酌されねば片手落ち」と書くのも面白い(p.189)。だが、朝日新聞等の「『想い』や至情とはどのようなものだったのか」は明瞭であり、すでに論じられ、語られているのではないか。