月刊正論2009年2月号(産経、2008.12)の高池勝彦「ケルゼンを知らねばパール判決は読み解けないか」(p.278-)によって、一連のパール判決・ケルゼニズム(・法実証主義)論争は終熄したかに思えた。
内容を引用・紹介していないが、この高池勝彦の論考について、私は「このタイトルは、この欄で既述の私見と同じ」。「東谷暁や八木秀次のパール・ケルゼン関係の文章よりもはるかに私には腑に落ちる」とだけかつてコメントした。
高池は中島岳志=西部邁・パール判決を問い直す(講談社現代新書、p.15、p.30、p.60)を挙げ、「パル判決の論理構成に関して、『パールを援用した自称保守派の東京裁判批判は、全面的に法実証主義に依拠している』とか、『法実証主義が果たして本来保守派が立つべき立場なのか』とか、『法律条文を金科玉条とする』といった批判がある」、と紹介していた(p.284)。そして、次のように批判または反論している。かつて紹介・引用していないので、ここではほぼ全文を引用しておく(p.285、旧かなづかいは改めた)。
①「なぜパル判事が法実証主義に依拠してはいけないのかわからない」。
②「そもそも本当にパル判事が…全面的に法実証主義に依拠しているのか、疑問」だ。
③「法実証主義が法律文を金科玉条としているというのは少なくともいい過ぎ」だろう。「ごく常識的な法実証主義」とは「法解釈にあたって…、存在と当為、事実と規範を分けて、判断することをいう」と理解するので、「これは現代の法解釈において多かれ少なかれとらざるを得ないのではないか」。「法実証主義は、実定法を解釈の対象」とし、「実定法を離れてイデオロギーや教義によって法を解釈することを拒否する」。「ただ、極端な法実証主義はそれこそ法律文を金科玉条とすることになりかねないというだけのこと」ではないか。
④「そもそも、国際法は、…慣習法が重要な法源であり、パル判事もそれを強調している」ので、「法律文を金科玉条とすることなど不可能」だ。
⑤西部・中島両氏が強調するのは「平和に対する罪」は「事後法の禁止に反する」旨をパル判事が述べているのを指すと思われるが、「パル判事はそれこそ平和の罪が犯罪ではないことを様々な条約や学説、事件などを引いて論証しているのであり、とても単なる法律文だけを根拠にしているのではない」。
⑥「パル判事が主としてケルゼンの学説に依拠しているといわんばかりの主張にも同意できない」。パル判事は「ケルゼンの学説をかなり理解し、必要な部分は取り入れているかもしれない」が、「それのみに依拠しているわけではなく、パル判決はそれ自体として判断する必要がある」。
ケルゼンを批判することによってパール判事(の意見書)(の基礎的考え方・「法律観」)をも批判しようとする西部邁や中島岳志の論法には、無理があり、こじつけがある。西部邁によると「主として」制定法(法律)を基準として仕事をしている現在の日本の多くの専門法曹(裁判官・弁護士等)は「法匪」になるのかもしれないが、かつてパール意見書を読んだことがあるとも言う(p.278)、弁護士・高池勝彦の理解・主張の方が<素人>の西部邁・中島岳志よりもはるかに信頼が措ける。
西部邁・中島岳志らによる、議論の不要な紛糾は避けた方がよく、「法」、とくに「制定法(法律)」に関する考え方について、西部邁が述べるところを信頼あるいは参照してはいけない。
なお、かつての論争の中心点はパール判事意見書(パール判決)は<日本「無罪」論>だったのか否か、だったようだ(高池p.278)。
この論点について高池は次のように述べて、中島岳志・西部邁とは異なる理解を示している(p.284)。
①<講談社学術文庫・パル判決書(上)の解説者・角田順はパール判決は「日本無罪論ではない」ことを強調しているが、小林よしのりが指摘するように仮定形の論述で、1.「仮定文の中身を真実であると認めたわけではない」、又は2.弁護側の無反論のゆえに仮定を「前提に議論を進めた」、という部分が「多い」のであり、私(高池)は「パル判決は全体として、日本が無罪であると主張しているとしか読めない」。>
②<但し、「無罪」とは「有罪と認定する証拠がない」ことを意味し、日本のすべての行動に「何の問題もなかった」ことを意味しはしない。「刑事上の無罪」は「道義的に無罪であるという意味ではない」とよく主張されるが、それは「当然のこと」だ。>
高池は日本の「道義」上の問題の具体的評価に立ち入っていないが、パール判決や中島岳志=西部邁・パール判決を問い直す(講談社現代新書)をきちんと読んではいないものの、上の論旨にも「納得がいく」。
その後、西部邁または中島岳志は、この高池勝彦論考に対してきちんと反論したのかどうか。
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