屋山太郎といえば産経新聞の「正論」欄にも登場する政治評論家だが、<保守>とか<左翼>とかの言葉を用いず、当面の総選挙において自民党を支持するか、それとも民主党を支持するか、というかたちでその立場を捉えた場合、自民党ではなく民主党を支持する者のようだ。
 やや古いが、週刊ダイヤモンド7/25号(ダイアモンド社)の櫻井よしこの連載コラムで桜井は計92行の文章のうち25行を屋山太郎の言葉の引用にあてている。すべてを載せると次のとおり。
 ①<…民主党事情に詳しい屋山太郎氏は、しかし、楽観的である。>
 「大胆に安全運転、これが政権奪取時の民主党の基本でしょう。外交・安保問題についても、従来の政策から大きくはずれることはないと思います。極論に走り、国民の信を失うような選択をするはずがないのです」。
 ②<屋山氏は、民主党と自公の最大の違いは外交・安保問題ではなく、国内政策に表れると予測する。>
 「自公政権は公務員制度改革を事実上葬りましたが、民主党は本気です。国家公務員33万人、ブロック局など地方に21万人。彼らの権益擁護のために政治が歪められ、国民の利益が失われてきました。改革の意味を理解できなかった麻生太郎首相の改革案は改悪です。麻生政権の終焉で同法案が廃案になるのは、むしろ、歓迎すべきです。民主党が真っ当な改革をするでしょう」。
 ③<屋山氏はさらに強調する。>
 「教育についても、民主党政権下で日教組路線が強まると心配する声があります。輿石東参議院議員会長が山梨日教組出身だから、そう思われるのでしょう。しかし、民主党の教育基本法改正案は自民党案よりまともでした。加えて、教育では首長の影響が非常に大きい。民主党政権イコール教育のねじ曲げではないと思います」。

 上の①・③で屋山は外交・安保問題や教育問題について、民主党政権になっても<心配はない>旨を語り、②では公務員制度改革では民主党の方が「本気」で、「真っ当な改革」をする、と言う。
 これらからすると、屋山は民主党候補に投票するするようだ。自民党から離れていることは公務員制度改革の議論・動向に関する彼の従来からの自民党批判に現れていたし、渡辺喜美の自民党離党の記者会見の席で渡辺とともに前に並んでいた。
 だが、<国のかたち>や国家・行政の基本と無関係だとは言わないが、「公務員制度改革」だけが政治・行政の課題ではない。<政党選択>は総合して判断する必要がある。長々と書く気はないが、「人権」擁護法、外国人地方参政権付与、夫婦別姓民法改正等々を民主党政権が促進又は制定させそうであることを考えても、また民主党の親北・親中国姿勢から見ても、自民党を丸ごと支持しないにしても、どちらかの選択を究極的に迫られれば自民党にならざるをえない、というのが「真っ当」で良識ある者の採るべき立場ではないか。
  櫻井よしこの叙述も奇妙ではある。全体の1/4以上を屋山太郎の言葉の引用で埋めながら、屋山の言葉をそのまま支持しているようではない。「民主党の政策は本当に見えてこない」(だから7/25号の時点では「マニフェストの発表を望む」となっている)とまとめているのだから、屋山太郎を実質的には批判している又は皮肉っているようにも読める。
 だが、櫻井よしこには民主党政権誕生阻止に向けて積極的に発言する気持ちはないようだ。 
 
同じ週刊ダイヤモンドの8/1号で、櫻井よしこは、小沢一郎の「金権」ぶりを松田賢弥・小沢一郎/虚飾の支配者(講談社)を使って批判してはいるが、冒頭で「8月30日の衆議院議員選挙で、民主党政権が誕生するだろう」とあっさり書いており、もはやそれを既定の方向と見なしている。民主党に投票するなという呼びかけや民主党擁護のマスコミ批判の言葉は全くない。  

 予想は当たることになるのかもしれないが、4週間も前の段階でこうまで諦めてしまうというのも、かなり奇妙なことだと思われる。 
 結果として<より左翼的な>民主党の大勝に寄与することにならないように、<より保守的な>人々には願いたいものだ。
  
 上で屋山太郎の不思議さ?に言及したが、少なくとももう一人、不思議で、訳の分からない人物がいる。勝谷誠彦だ。
 勝谷誠彦は「師匠」・花田紀凱の影響を受けている皇室問題を除いて<愛国・保守派>のようでもあるが、小沢一郎を支持・擁護し、兵庫・尼崎から立候補して民主党の推薦も受ける田中康夫(新党日本)を支持している。田中の傍らに立って、応援演説でもしそうなシーンがテレビに写っていた。
 奇妙奇天烈。新党日本・民主党の<防衛>政策と自民党のそれを比べて、
勝谷誠彦の<防衛>論は前者に近いと彼は考えているのだろうか。こんな人物の存在・発生も、日本の末期的症状の徴しなのかもしれない。