以下の東京大学(・大学院情報学環・学際情報学府)の措置については、だいぶ前にネット上で目にして、<直感的に>疑問を感じた。
 資料掲載だけにとどめたいが、詳細を知らないままで、つぎのことを書いておく。
 第一。懲戒にかかる<要件>規定は一義的明確ではなく、要件認定に際しては濫用されるおそれがある条項になっている。つまり、<多数派>によってどのようにでも認定できる可能性を排除できない。
 第二。「被差別者」、「人格権被侵害者」が訴えを起こしたのちの司法判断ではなく、大学という組織がこうした問題にどのようにかかわるべきかは、教員個人の関係でも、微妙な問題を含んでいる。一般論として、今回の被処分者が特定大学・大学院所属を明確にしていても、それがただちに<特定大学・大学院>の名誉等を傷つけたことになるとは限らないだろう。「感覚」で判断してはならない。
 ちなみに橋下徹は京都大学(・大学院工学研究科)の藤井聡のマスコミ上の言論活動についてかつて、「京都大学は何とかしろ」旨をしきりと言っていたが、当然ながら京都大学は何の措置も執っていない。むろん、上の件とは、言論活動自体の内容が同じでないだろうことは認める。しかし、まったく共通性がないとも思われない。
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 東京大学HP(本部広報課)
 掲載日:2020年1月15日
 懲戒処分の公表について(記者発表)
 
東京大学は、大学院情報学環 大澤昇平特任准教授(以下「大澤特任准教授」という。)について、以下の事実があったことを認定し、1月15日付けで、懲戒解雇の懲戒処分を行った。
 <認定する事実>
 大澤特任准教授は、ツイッターの自らのアカウントにおいて、プロフィールに「東大最年少准教授」と記載し、以下の投稿を行った。
 (1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿
 (2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
 (3) 本学東洋文化研究所が特定の国の支配下にあるかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
 (4) 元本学特任教員を根拠なく誹謗・中傷する投稿
 (5) 本学大学院情報学環に所属する教員の人格権を侵害する投稿
 大澤特任准教授の行為は、東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則第85条第1項第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」及び同項第8号に定める「その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」に該当することから、同規則第86条第6号に定める懲戒解雇の懲戒処分としたものである。
<添付資料>
 ・東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則(抄) (PDFファイル: 68KB)
 ・東京大学における懲戒処分の公表基準 (PDFファイル: 12KB)
 東京大学理事(人事労務担当)
 里見朋香 
 東京大学では、大学の依って立つべき理念と目標を明らかにした「東京大学憲章」の前文で、『構成員の多様性が本質的に重要な意味をもつことを認識し、すべての構成員が国籍、性別、年齢、言語、宗教、政治上その他の意見、出身、財産、門地その他の地位、婚姻上の地位、家庭における地位、障害、疾患、経歴等の事由によって差別されることのないことを保障し、広く大学の活動に参画する機会をもつことができるように努める。』と明記しています。この東京大学憲章の下、東京大学は「東京大学ビジョン2020」を策定し、誰ひとり取り残すことのない、包摂的(インクルーシブ)でより良い社会をつくることに貢献するため、全学的に教育・研究に取り組んでまいりました。
 東京大学の構成員である教職員には、東京大学憲章の下で、それぞれの責任を自覚し、東京大学の目標の達成に努める責務があります。そのような中で、対象者により、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で、「東大最年少准教授」の肩書きのもとに国籍・民族を理由とする差別的な投稿がなされたこと、また本学の元構成員、現構成員を根拠なく誹謗・中傷する投稿がなされたこと、それによって教職員としての遵守事項に違反し、ひいては東京大学の名誉又は信用を著しく傷つけたことは誠に遺憾です。このような行為は本学教職員として決して許されるものではなく、厳正な処分をいたしました。
 東京大学としては、その社会的責任にかんがみ、今回の事態を厳粛に受け止めております。今後二度とこのような行為がおこらないよう、倫理規範を全教職員に徹底するとともに、教員採用手続や組織運営の在り方を再検証するなど、全学を挙げて再発防止に努めます。また、世界に開かれた大学として、本学の教職員・学生のみならず、本学に関わる全ての方々が、国籍や民族をはじめとするあらゆる個人の属性によって差別されることなく活躍できる環境の整備を、今後も進めていく所存です。
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 東京大学大学院情報学環・学際情報学府HP
 January 15, 2020
 大澤昇平特任准教授に対する懲戒処分について
 この度は大澤昇平特任准教授による一連のSNSへの書き込み等により、大変なご迷惑をおかけしました。そこには、差別や誹謗、中傷、虚偽の数々があり、それによって多くの方々を傷つけ、不快感や不安を与え、また多方面から激しい憤りを頂戴することとなりました。心よりお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。2020年1月15日、情報学環・学際情報学府における調査等を経て、東京大学により、大澤特任准教授に対し懲戒解雇の懲戒処分がなされたことをご報告いたします。
 〔以下、上の大学全体の公表資料-略〕
 東京大学は学問の府であり真理を探求する場です。そのために、多様な人々がそれぞれの立場から自由闊達に議論できることが本質的に重要であるのは言うまでもありません。しかしそれは、SNS等のメディアを含む公の場において、いわれなき個人攻撃や差別をまき散らしてよいことを意味しません。そのような行為は、むしろ自由闊達な議論や言論を封殺し、侵害するものです。一連のSNSへの書き込みについて、私たちはこれを決して許されるものではないと考えています。
 真理探求の環境は、放っておけば自然とできあがるようなものではありません。東京大学の構成員である私たち自身が高い理想と倫理観を常に携え、たゆまぬ努力を積み重ねていくことが不可欠です。私たちは今回の事案を厳粛に受け止めます。問題は書き込みをした本人だけにあるのではなく、情報学環・学際情報学府の対応の不十分さ、努力不足にも起因するものと考え、深く反省しています
 私たちは今回のような問題を二度と起こさぬために、以下の活動を計画的かつ迅速に進めます。まずなにより学生や教職員との対話を深めます。当該寄付講座については、本年度末で廃止する予定です。そして原因究明と再発防止策に関する調査委員会を設置するとともに、倫理規定の整備、寄付講座や社会連携講座の設置方法の見直しを進めます。また情報学環・学際情報学府における教員採用手続や組織運営の在り方の検討を含め、本部とも連携をとりつつ根本的な改革に全力を挙げて取り組んでいくつもりです。
 東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長
 越塚登
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 後者の、上の傍線部あたりは、なかなかに<怖ろしい>見解だとも感じる。-自主規制的「全体主義」の萌芽でなければよいが。あるいは、<多数のクレーマー>への事なかれ主義的な対応(・屈服)か。
 例えば、「いわれなき個人攻撃や差別」だと、あるいは「高い理想と倫理観」に反すると、「越塚登」や当該学府(→東京大学)は、どうして認定・判断できるのか。地裁の複数の裁判官あるいは最高裁判所の多数裁判官がそう判断するなら、まだいちおうは納得しもするが。