2016年の東京都知事選に宇都宮健児はいったん立候補表明をしたが、鳥越俊太郎が民進党・日本共産党・社民党等に推される共同候補となって、宇都宮は立候補しなかった。
 選挙後に、宇都宮は鳥越を応援しなかった理由を明らかにした、という。
 4年前のいきさつや今回(2020年)の選挙のことに触れたいのではない。
 八幡和郎が4年前に<アゴラ>欄に登載した文章が印象に残っており(2016年8月2日付)、そこに垣間見える八幡和郎という人物の<意識・気分>に関心をもつので、以下を書く。また、八幡の文章のタイトルは「宇都宮氏の応援拒絶真相と女性議員の不甲斐なさ」で、私が関心をもつのは、主題全体でもない。
 さて、2016年の選挙(投票)後に宇都宮が明らかにした鳥越を応援しなかった理由は、「女性問題」にあったという。
 その中身や真否に立ち入らない。
 八幡和郎は、その理由をおそらくそのまま詳しく紹介している。ここでは引用しない。
 興味を惹くのは、八幡のつぎの文章だ。
 「まことに法律家として筋の通った論旨である。私も10年余りあとに同じ大学の同じ学部で学んだ者として、我々が学んだ法の精神はこういうものだったと気分が良かった。法学を学ぶと言うことは、法務知識を駆使し正義を無視して自己の利益を図る技術を獲得することではないと教えられたものだ。
 これを見て、この宇都宮氏にこそ知事になって欲しかったという声も高まっているくらいだが、いくら立派な人でもめざす政策が正しいか、経済的な裏付けがあるかなど別の問題だから飛躍は困るが、宇都宮氏のこの意見表明が、こんどの都知事選挙を締めくくる一服の清涼剤となったことは間違いない。」
 上の後段は、宇都宮が知事になって欲しかった、と書いているわけではない。
 しかし、前段に、八幡和郎の<意識・気分>が現れているだろう。
 いわく、「法律家として筋の通った論旨」だ、「私も10年余りあとに同じ大学の同じ学部で学んだ者として、我々が学んだ法の精神はこういうものだったと気分が良かった」、「法学を学ぶということは、」…うんぬん。
 果たして、この部分で、八幡和郎は何を言いたいのか。言いたいというよりも、基礎にある<意識・気分>は何か。
 それは、大雑把には、宇都宮健児は自分が卒業した大学・学部の「先輩」であり、その彼の今回の(2016年の)発言は「気分が良かった」、というものだ。
 宇都宮健児は2020年都知事選挙に立憲民主党・共産党・社民党等に推されて候補者になっている者で、2012年以前にも(いわば「野党」統一候補として)立候補したことがある。
 そのような<政治信条>を無視するわけではないが、しかし、八幡和郎は、宇都宮は自分の「先輩」で「法学」を学んだ者だ(日弁連会長経験者だから当たり前のことだ)、とわざわざ記したかったのだろう。
 些細なことに言及していると感じられるかもしれない。
 「知(知識)」習得の結果としての大学または「学歴」というもののうさん臭さに近年は関心がある。「知」それ自体では、何ものも保障しないし、判断できない。
 また、「自己帰属意識」ないし戦後日本人の<アイデンティティ>というものにも以前から強い関心がある。出身大学・「学部」等々は、いかほどの「自己意識」を形成しており、かつまたその<機能>はどう評価されるべきか。
 あくまで推測になるが、八幡和郎は、場合によっては、自分以外の者の出身大学を他の何らかの要素よりも優先して考慮・配慮するのだろう。そうでないと、上のような文章を書かない。
 また、ここでは立ち入らないが、八幡和郎の「自己意識」を形成していると見られるのは<経済産業省官僚出身者>(かつフランス・ENA留学組)ということだろうと推察される。しかし、これはあくまで<過去>に関するものなので、現在と論理的には直接の関係はない(はずだ。この点、弁護士資格という国家「資格」は永続するのと異なる)。
 国家公務員(かつての)上級職試験合格者という「資格」があるのではない。あっても、数年間だけのはずだ。(特定の?)大学入学試験合格も卒業も、それだけでは、それ自体では、何の意味もないはずだ。何らかの「知識」の学習・修得が証されたとしても、それだけでは、つまりその「知識」を保持するだけでは、利用しなければ、人間社会・現実の社会にって、何の「役にも立たない」。その辺りが、きわめて曖昧になり、かつ異様な方向へと転じている<雰囲気>がある。これは戦後日本がたどり着いた現在の一つの特徴だろう。だが、何らかの「秩序づけ」と「安定」に役立っているかもしれない。しかし、何となくの緩やかな秩序化は、種々の意味と段階でのく既得権者>をも生み、必要な変化と変革を遅らせるだろう。
 余計ながら、何か勘違いをしているのではないか、なぜそんなに大胆かつ傲慢なことを単純に書けるのか、と感じる文筆家業者は多い。八幡和郎だけでは、もちろんない。