天皇譲位問題-往生際の悪い産経新聞社・月刊正論。
 昨年夏以降の天皇譲位問題の発生とその帰趨は、少なくとも内部的には産経新聞社を困惑させ、混乱させたと思われる。
 もともとの主張は、当時又はのちの「アホの4人組(加地伸行を含めて5人組でもよい)」の主張と同じで、譲位反対・摂政制度利用論だったようだ。
 産経新聞は昨年8/06社説(主張)で、とくに小堀桂一郎の言を紹介したりして、このような方向の主張をしている。
 但し、世論調査の結果と大きな齟齬がでてきたことは、意識したに違いない。
 それでも、記憶に頼れば、阿比留瑠比は、<世論調査結果に一喜一憂しないで…〔じっくりと正しい方向へ〕>という旨を書いていた。産経や阿比留にとって「喜」となる調査結果、「憂」となる調査結果は何かと思いめぐらさせ、それらが推測できそうで、かなり興味深かった。
 11月のヒアリングの頃には社としての主張を確定していたのかどうかは、私にははっきりしない。購読者でないので、いつ頃に転じたのか分からないが、12/23日社説では、「今の陛下の一代に限り、特別措置法で譲位を実現する方向性が出ている。/陛下のお気持ちを踏まえ、できるだけ早く見直す観点からは、自然な流れではないだろうか」となっており、その後はこの線の主張をしてきている。
 世論を完全に無視できず、かつ皇室典範全面改正も認めたくない、という、政府・自民党がもともと提供しようとしていた折衷案的解決にすがったことになるのかもしれない。
 というわけで、産経新聞と譲位問題には現時点では語ることはほとんどないとも言える。
 しかし、同社発行の月刊正論上の「教授」・「先生」はなおも、<ぐじゃぐじゃ>と述べている。「負け犬の遠吠え」というか「敗者のルサンチマン」というか。
 3月上旬辺りが最終編集だろうか、月刊正論5月号(産経)「メディア裏通信簿」欄によると、以下。
 ①「教授」-「天皇陛下のご意思に基づく法整備と退位は憲法上の疑義がある」。「先生」-「完全に憲法違反だぜ」。
 ②「教授」-「摂政設置や国事行為の代行という選択肢もあると指摘されているのに、あえてその方向をとらず、退位にこだわったのは、天皇陛下が摂政に否定だったからでしょう。そういう意味でも〔=天皇の意思によるのだから〕退位制度は国民や国会の意思という理屈には無理がある」。
 上の①については、「おことば」後の記者会見の際に「内閣の助言の承認により」発したという説明を今上陛下はなされた。また、NHKによる放送を予め政権中枢が全く知らなかったとは考え難い。さらにもともと言えば、今上陛下にも一人間としての意思や思考は当然にあるので、その表明を一切封じてよいのか、「国政」に結果として影響を与えることになるのか否かは「お言葉」の時点ではまだ分からない、といった論点もある。
 ②については、もともと摂政設置と国事行為委任法では天皇の行為の全てをカバーできない部分があるという原理的・基礎的な問題点がある。また、「天皇の意思」によるからと言うが、国会が自立的に法律を改正しその原案・法律案を内閣が自立的に作成するということに問題はないだろう。自立性を正面から否定するのはむつかしい。「教授」や「先生」も、政府が改正準備を始めたあとの、彼らにとって賛成できる皇室典範の非改正、現状維持であれば、それがいかに今上陛下の明示の意思表明にもとづくものであっても、形式や手続を問題にしないのだろう。
 そういう中味よりも、もしこれらを正々堂々と主張したいならば、月刊正論の最後の辺りの、「覆面」雑談記事でではなく、産経新聞の「正論」欄とか、あるいは<誰が正しい譲位否定論を潰したか>とでも題した論考を月刊正論にでも掲載すべきだろう。
 そうしないで覆面をかぶって雑談のごとくしゃべっているのは、じつに諦めの悪い、怨念丸出しの、印象のよくないことだ。
 ところで、「教授」は月刊正論も含めて原稿執筆依頼を受けて、執筆して校正・見出しつけにかかわることがあるらしい(p.335)。
 月刊正論に小さくとも必ずのように登場する、「教授」のごとき主張をしかつ恨み節も述べそうな覆面人間は、八木秀次、という人ではないか。
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 同欄から追加の引用。社説には現れていない、産経新聞又は月刊正論編集部の<本音>や<困惑>がかなり分かる。
 月刊正論2016年11月号p.319〔9月上旬に最終編集か〕。「先生」-「俺たち保守派は伝統と法にもとづいて天皇が政治的決定をしないように主張すべき」だし、それが「天皇の立場を守ることになる」。「月刊正論10月号で終身在位制の意義を強調して、ご譲位を遠回しに否定した八木秀次が批判されている」が、「間違っているのは、どっちなんだ」。
 月刊正論2016年12月号p.308〔10月上旬に最終編集か〕。「先生」-「SAPIO11月号では小林よしのりが…男系維持派の渡部昇一や八木秀次たち保守論客をバカみたいな絵で描いていたな」。
 「教授」-「ひどい描き方ですね。しかも名前を書いていない。文句を付けられないように、わざと書いていないんでしようね」。
 /名前を書いていないのは、「教授」も「先生」も同じで、かつ似顔絵もない〔秋月〕。
 同p.309〔10月上旬に最終編集か〕。「編集者」-「産経も読売も、自分たち自身が本音では『困惑』している当事者でもあるから、はっきりものが言えなくて…。」
 「先生」-「少なくとも、月刊正論ではもっと〔譲位に対する〕反対・慎重論を明記して、議論を喚起すべきじゃないか」。
 「編集者」-「また、そんな厳しいことを。……いろいろ考えるとなかなか…。…を読んでも、そこのところを悩んでいるのが、分かるじゃないですか、勘弁してください」。等々。